屍者の帝国

楽しんで読むことができた。いろいろあるにしても、きちんとエンターテイメントとして読める。

何よりも素晴らしいのは、円城塔であるにもかかわらず、十分に伊藤計劃を感じられることだろう。

確かに、伊藤計劃だったらこうはならないのではないか、と思うところはある。しかし冷静に考えれば、円城塔だったらこうはならない、とも言えそうなのだから、これは「伊藤計劃×円城塔」という著者のデビュー作だと考えるべきだ。

伊藤計劃の作品は、かなり映像的に感じられる。スピード感も、場面転換も、情景の描かれ方も。文章を読んでいて、その情景が浮かんでくるというのはよくある話だが、伊藤計劃の作品においては、その傾向は非常に顕著であるように思える。ガジェットあり、アクションありの、ハリウッド的な豪華さもある。格好良く、難解すぎない。

一方で円城塔の書く文章は、自分の中では、例えばクラインの壺のようだったり、フラクタルであったり、そんな風なイメージになる。物語の内容というよりは、物語全体の作り出す形状が興味深い。ある程度読み進めないと形すら見えないし、読み進めると物語の外に何かしらが構築されてしまう。それが恐ろしくもあり、面白い。が、物語が脳内で直接映像化される伊藤計劃の作品とは、プロセスが違うというかなんというか。

だから、公開前にはどうなることやらと思っていたが、ある意味では想定外なほど視覚的な、伊藤計劃的な作品だった。「円城塔の文章なんて読めねぇ」という人でもこれは読めるだろう。普通に、頭からおしりまで読めばいいだけ。豪華で魅力的な登場人物とガジェット、そして展開。ちゃんと「次のページをめくりたくなる」あの楽しさが宿っている。それって何のひねりもなく、ただの良い本じゃないか。

本書を読んで、伊藤計劃という著者か喪われたことが改めて惜しくて堪らなくなったが、でも実際は、こうして作品が出てくるわけで、結局のところ、失われていないのかもしれない。そんなオチをつけてしまうあたりは、円城塔らしい。

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